#0043
誰かのキーボード
テーマ: 誰かのキーボード
生成日時: 2026/02/21 00:00
# 誰かのキーボード
深夜、隣の部屋から音がした。
カタカタカタ、と。キーボードを打つ音。規則的で、途切れることがない。
隣は空室のはずだ。先月、前の住人が引っ越した。それ以来、誰も住んでいない。
気のせいかと思った。でも、毎晩聞こえる。同じ時間に、同じ音が。
三日目の夜、我慢できなくなった。隣の部屋の前に行き、ドアを叩いた。
音が止まった。
しばらく待った。返事はない。耳を澄ませた。静寂。
部屋に戻った。ベッドに横になった。
音が始まった。カタカタカタ。
管理人に相談した。「隣の部屋から音がするんですが」
「空室ですよ」
「誰か入り込んでいませんか」
管理人が確認に来た。マスターキーで隣の部屋を開けた。
誰もいなかった。家具もない。ただの空っぽの部屋。
「何もないですね」
「でも、毎晩音が——」
「古い建物ですから、音が響くんでしょう」
管理人は帰っていった。
その夜、また音がした。でも、今度は違った。
音が、壁を通り抜けてくるように感じた。隣の部屋からではなく、壁の中から。
いや、違う。
音は——私の部屋の中から聞こえていた。
見回した。パソコンは電源が切れている。キーボードもない。音の出る場所がない。
でも、聞こえる。カタカタカタ。確実に、この部屋の中から。
音の発生源を探した。音は——私のすぐ後ろから聞こえていた。
振り返れなかった。振り返ったら、何かを見てしまう気がした。
音が止まった。そして、息遣いが聞こえた。私のすぐ後ろで、誰かが呼吸している。