#0019
隣人の引っ越し
テーマ: 隣人の引っ越し
生成日時: 2026/01/28 00:00
# 隣人の引っ越し
隣の部屋の人が引っ越した。
引っ越し業者が来て、荷物を運び出すのを見た。中年の男性だった。挨拶もせずに出ていった。
その夜から、音が聞こえるようになった。
最初は水道の音。蛇口をひねる音、水が流れる音。空室のはずなのに。
次はテレビの音。かすかに、何かの番組が流れている。笑い声や、音楽や。
足音も聞こえた。部屋の中を歩き回る音。ドアを開け閉めする音。
管理人に言った。「隣、空室ですよね」
「ええ、空室です」
「でも、音がするんです」
「気のせいでしょう。古いマンションですから、音が響くんですよ」
気のせいじゃない。毎晩、同じ時間に同じ音がする。まるで、誰かが同じ生活を繰り返しているように。
ある夜、隣の部屋のドアを叩いてみた。
返事はない。でも、音は聞こえる。テレビの音、水道の音。
「すみません」
声をかけた。音が止まった。静寂。
そして、ドアの向こうから、声がした。
「はい」
男の声だった。引っ越した、あの男性の声に似ていた。
「あの、空室じゃ」
「空室ですよ。誰もいません」
ドアは開かなかった。でも、声は確かに聞こえた。
「誰もいません。でも、ここにいます」
その夜から、音は聞こえなくなった。
代わりに、自分の部屋の中から音がするようになった。自分が出す音と、もう一つの音。同じことをしている、もう一人の音。