#0012
配達先の老人
テーマ: 配達先の老人
生成日時: 2026/01/21 00:00
# 配達先の老人
宅配の仕事をしている。毎日、同じルートを回る。
その家には、週に三回配達がある。一人暮らしの老人。いつも玄関先で受け取ってくれる。
最初は気づかなかった。でも、三週目くらいから違和感を覚えた。
その老人の顔が、毎回少しずつ違う気がするのだ。
月曜日。深い皺と、垂れた目元。火曜日。同じ顔だと思った。でも、よく見ると目元が違う。水曜日。また違う。鼻の形が変わっている気がする。
気のせいだろう。人の顔なんて、照明や角度で違って見える。
でも、金曜日に確信した。その日の老人は、明らかに若かった。皺が浅い。髪も、白髪より黒い部分が多い。
「いつもありがとうございます」
声は同じだった。でも、顔が違う。
「あの、失礼ですが——」
「何か?」
「いえ、何でもないです」
言えなかった。『あなたは誰ですか』とは。
その週末、配達センターで先輩に聞いてみた。「あの家、昔から同じお客さん?」
「ああ、あの家ね。俺が入った時からいるよ。十五年前から」
「十五年?」
「そう。でも不思議だよな。十五年経っても全然老けないんだ。むしろ若くなってる気がする」
次の月曜日、私は注意深く観察した。
玄関が開いた。出てきたのは——若い女性だった。でも、声は同じだった。
「いつもありがとうございます」